森下佳子とは

S:「1.スジ、2.ヌケ、3.ドウサ」という言葉がある。「日本映画の父」とされる牧野省三のモットーで、映画論で必ず触れられる言葉。

M:牧野省三は一般的には津川雅彦や長門裕之のお祖父さんとして有名かも。

S:スジは脚本、ヌケは映像技術、ドウサは役者の演技のことをいい、これらが映画の三大要素とされる。

M:大河のタイトルバックでもまず最初にくるのが脚本。

S:『おんな城主 直虎』の脚本・森下佳子は、2000年に日本テレビ系の『平成夫婦茶碗』で脚本家デビューし、以降もTBS系の『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『白夜行』(2006年)、『JIN-仁-』(2009年、2011年)、『とんび』(2013年)、『天皇の料理番』(2015年)などの期待作を担当する。NHKでは朝ドラの『ごちそうさん』(2014年)と特別枠のドラマ『経世済民の男』(2015年)第二部を経て今回の大河となる。

M:2000年にデビューで、原作が売れに売れた『世界の中心で、愛をさけぶ』と『白夜行』を数年で任せられるって凄い。『白夜行』と『JIN-仁-』しか見てないけど、どれも話題になったドラマで視聴率も高かったと思う。

S:『白夜行』は原作にはない主人公2人の直接的な交わりを大幅に補完しており、脚本家の力がはっきり問われた作品。主題歌を柴咲コウが歌っていたりもする。

M:『白夜行』は今でもAmazonビデオでたまに見る。映画版も見たけど全然違う。

S:原作とそれを忠実に再現しようとした映画版がドライな悲劇だとすれば、ドラマ版はウェットな悲劇。今話題の小出恵介演じる園村と余貴美子演じる谷口の存在がドラマに救いをもたらしている。

M:『JIN-仁-』も凄くウェット(?)なドラマだった。そういえば小出恵介は『JIN-仁-』でも綾瀬はるかの兄という重要な役で……。

S:たしか、園村は原作と比べてかなり出番を増やされており、谷口は原作には存在しない完全なオリジナルキャラクター。他にも改変されている部分は多く、原作レイプと言われても不思議ではないけど、そういった声はあまり聞こえてこない。

M:たいして改変していなくても原作レイプと罵られることが多いのに。

S:有名作品をドラマ化、映画化するのはそれだけ難しいということなのだろう。原作に対する思い入れがどうしても強くなる。

ウェットさと潔さ

M:そんななか、今回の『おんな城主 直虎』は原作なしの完全オリジナル作品。

S:しかも主人公の直虎(柴咲コウ)は史料がほとんど残っておらず、放送直前に井伊家の末裔から男性説が発表される始末。

M:原作ありの作品で評価を高めてきた脚本家だけに不安視する声もあったけど……。

S:人間関係を丁寧に描いているしドラマとして面白い。特に序盤はウェットな悲劇に。

M:父や元許嫁が次々と死んでいき……『平清盛』(2012年)のスタッフが担当していたら滅入っちゃうような悲劇になっていた可能性も。

S:そのウェットな悲劇が過ぎ去ると一転、直虎は城主として領国経営に邁進する。大河で国衆規模での領国経営がここまで描かれるのも珍しいから新鮮。

M:昨年の『真田丸』の真田家も国衆時代のほうが長かったっけ。

S:でも外交関係がメインで、領国経営にはほとんどスポットが当たらなかった。主人公の信繁(堺雅人)が大坂に行ってからは中央(豊臣家)との関わりばかり描かれていたけど、「大河」なんだからそれはある意味当然で。

M:直虎も徳川家康(阿部サダヲ)や武田信玄(松平健)といった有名人物にもっと絡んでいくのかと思った。『利家とまつ』(2002年)のまつ(松嶋菜々子)、『功名が辻』(2006年)の千代(仲間由紀恵)、『江』(2011年)の江(上野樹里)のように。

S:絡んでいかないまでも、もう少しパラレルに徳川家や武田家の様子が描かれていくのかと思った。従来の多くの大河のように。

M:駿府の今川様との絡みもそこそこに、最近は井伊谷や気賀で好き放題やっている。

S:織田や徳川、武田が好きで見ている人には物足りなくもあるだろうけど、ここまでバッサリ切れるのはある意味潔い。

M:視聴率を考えれば有名人物はどんどん出したいところ。でもおかげで、商人の瀬戸方久(ムロツヨシ)や気賀の町といったメジャーとはいえない対象に興味を持てた。

S:それも大河の大きな役割の一つ。

M:気賀や駿府の町のセットも手が込んでいる。

S:従来の大河ドラマと比べて外ロケが多く開放感がある。

M:信繁にも上田や大坂の町を歩き回ってほしかったなぁ。

S:ただ、直政(菅田将暉)が仕えることになる徳川家だけはもう少し触れても良いと思う。初期の徳川家って、『徳川家康』(1983年)以来、『武田信玄』(1988年)でも『信長 KING OF ZIPANGU』(1992年)でもしっかり描かれておらず、意外と知られていない。

M:家康と築山殿(菜々緒)は先週の第24回「さよならだけが人生か?」で久々に登場したけど、久々すぎて2人の関係がどういうことになっているのかすぐに理解できなかった。

S:築山殿が井伊家の親族だってことすら忘れている人も多そう。今週は第25回で早くも折り返し地点。

M:悪女で有名な築山殿に菜々緒。これからどういう描かれ方をするのか楽しみ。

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