歴史初心者にとって大河ドラマは格好の「歴史」への架け橋となる。面白い大河ドラマは「歴史」をぐんと身近なものにしてくれる。ここでは、全編ハイビジョンになった2000年以降の大河ドラマをリストアップし(一部それ以外の作品を含む)、その中から歴史初心者が見ても面白く、かつ「歴史」を生々しく感じさせてくれる作品をピックアップしたい。

*戦国(中央)と戦国(地方)は、ドラマの主な舞台が中央(その時代の表舞台になった場所)かどうかで区分する。対象Lvは、Lv1=初級、Lv2=初中級、Lv3=中級、Lv4=中上級、Lv5=上級とする。

戦国(中央)

・『江』(2011年)Lv1 – Lv2

・『利家とまつ』(2002年)Lv1 – Lv3

『功名が辻』(2006年)Lv1 – Lv4

『秀吉』(1996年)Lv1 – Lv5

・『軍師官兵衛』(2014年)Lv2 – Lv4

・『葵 徳川三代』(2000年)Lv3 – Lv5

『江』はターゲットを小中学生に絞り込んだ印象もあるが、主人公が目上の者(秀吉など)に命令したり乱暴な言葉を吐いたり、そういう部分は小中学生に見せたくないもの。

『利家とまつ』は、旬のトレンディ俳優を多く起用して大河ドラマの敷居を大きく下げ、特に男性陣が魅力的に描かれていた。ただ、各回の最大の見せ場がまつ(松嶋菜々子)の活躍で締め括られることも多く、歴史的事象の掘り下げも浅い。

『功名が辻』も『利家とまつ』の夫婦路線を踏襲するものであったが、ストーリーがより重層的で、『利家とまつ』のまつほど千代(仲間由紀恵)の言動にあざとさは感じられなかった。また、脚本や役者が作り出す雰囲気、演出も老若男女に受け入れられやすいもので、その辺りは『秀吉』よりも優っている点といえる。

その『秀吉』は、脚本の面でも演出の面でも突き抜けた面白さがあり、頭でっかちになりがちな専門家や研究者でも人間ドラマとして十分楽しめる作り。ただし、主役が人間臭くギラギラしており、序盤は視覚的にも露出が目立っていたので、女性によっては好悪が分かれるかも。

『秀吉』の竹中直人が再び秀吉を演じた『軍師官兵衛』は、歴史初心者にとってはストーリーに面白味がなくテンポも悪く、従来の大河視聴者にとってはキャラ付けが単純にすぎて楽しめない。演出等は生々しさを感じさせるものだっただけに残念。

『葵 徳川三代』は言葉遣いの面でどうしても敷居が少し高くなる。ストーリーも「歴史」を真正面から捉えようとした奇を衒わないもの。『秀吉』や『功名が辻』、あるいは『独眼竜政宗』や『真田丸』を見た後なら、この作品の面白さもすんなり入ってくるはず。

■この区分において、2000年以降は決定打が出ていない。その中で『功名が辻』は無難な作り。1996年の『秀吉』は今見てもそれほど古さを感じない。1978年の『黄金の日日』も名作として定着しているがさすがに古めかしい。『葵 徳川三代』は『秀吉』の後に見ると時代的にも繋がって面白い。

戦国(地方)

・『天地人』(2009年)Lv1 – Lv3

『真田丸』(2016年)Lv1 – Lv5

『独眼竜政宗』(1987年)Lv1 – Lv5

・『真田太平記』(1985年)Lv2 – Lv5

・『風林火山』(2007年)Lv3 – Lv5

『天地人』も『軍師官兵衛』と同じく勧善懲悪の世界。ストーリー的にはそれなりに面白く、当時流行っていたテレビゲームの影響もあってか、演出や音楽の面での爽快さは随一。

『真田丸』は歴史初心者から歴史マニアまで目配りの効いた作りになっている。ただ、その目配りが時にあざとく、脚本にも演出にも独特の味付けがなされているため、これは相性が悪ければ受け付けられないものになるだろう。この作品の場合、特にシニア層にその傾向が強いと思われる。

『独眼竜政宗』は歴代大河ドラマ視聴率最高の歴史的作品。個人的には『秀吉』や『葵 徳川三代』と比べて特別面白いとも思えなかったが、これも相性の問題によるところが多分にあって、多くの専門家や評論家が「歴代最高の大河」と評価しているので一度は見ておきたい作品。

『真田太平記』(新大型時代劇)は『真田丸』の後に見るとより楽しめるはず。『真田丸』と比べてより真田家に焦点が絞られており、忍者など架空人物の登場も多い。真田兄弟の肉親・樋口角兵衛(榎木孝明)も架空の人物で、『真田丸』のきり(長澤まさみ)のようなポジション。きり以上に出番も多く、その存在はきり以上に評価が分かれる。

『風林火山』も『真田丸』と繋がりの深い作品。真田中興の祖・真田幸隆が『風林火山』に準主役級で出ており、『風林火山』の主演・内野聖陽が『真田丸』に徳川家康役で出演。脚本や役者の演技は極めて骨太で男臭く、演出はダサさを感じる部分もあり、敷居はこの中では高いといえるが、『真田丸』の前後に見ておきたい作品。

■『真田丸』は中央での活躍も多いので、上の「戦国(中央)」の区分に入れることもできる。『天地人』も『独眼竜政宗』も『真田太平記』も、安土桃山~江戸初期と時代的には重なる。『真田丸』のテイストが合わなければいずれかを(『天地人』のテイストは更に合わない可能性が高い)。『風林火山』は少し敷居は高くなるが、それらの作品の前に見ると時代的に繋がる。

幕末

『篤姫』(2008年)Lv1 – Lv4

『新選組!』(2004年)Lv1 – Lv5

・『花燃ゆ』(2015年)Lv2 – Lv4

・『龍馬伝』(2010年)Lv2 – Lv5

・『八重の桜』(2013年)Lv2 – Lv5

『篤姫』はストーリーに一本筋が通っていた。そこが同じ田渕久美子脚本の『江』(原作なし)との違い。「役割」という概念を使って井伊直弼(中村梅雀)を見直し、歴史上に埋もれつつあった小松帯刀(瑛太)を発掘した意義は大きい。ただ「大奥」が主な舞台であるだけに、重要な歴史的事件でもすっ飛ばされたり(特に後半)。

『篤姫』は女性向きといえるが、『新選組!』は性別を問わず楽しめる。その代わり、『篤姫』と違ってシニア層には受けない作風で、その傾向は序盤に顕著。中盤以降は緊張感のある回が続き、「新選組」という組織の負の側面や歴史的役割もしっかり描けていた。続編となるNHK正月時代劇『新選組!! 土方歳三 最期の一日』も見ておきたい。

『花燃ゆ』は序盤から視聴率が急落し、その影響からか制作陣が迷走して最後まで焦点が定まらなかった印象。幕末は良作が続いていただけに残念。

『龍馬伝』は、映像面でのリアリティや理想の主人公像というべきものを徹底的に追求し、『花燃ゆ』と違って最後まで妥協はしなかった。主人公を美化しすぎという批判も多かったが、こと坂本龍馬という歴史人物に限ってはそれも許されるのではないか。ただそのせいか、キャラ付けやストーリーはやや単調に。

『八重の桜』は、前半の「会津編」はLv3 – Lv5、後半の「京都編」はLv2 – Lv4。「会津編」は八重(綾瀬はるか)の兄・覚馬(西島秀俊)や松平容保(綾野剛)が活躍し硬派な作り。「京都編」は朝ドラに近い作風に転じて敷居が低くなった分、「会津編」からの数々の重要な問題提起を回収しきれていない。その点だけが残念。

■『新選組!』は幕府、『篤姫』は薩摩と幕府、『龍馬伝』は土佐、『八重の桜』は会津、『花燃ゆ』は長州目線の作品。『花燃ゆ』を除いていずれも良作といえる。会津戦争までを描いた『八重の桜』の「会津編」と箱館戦争を描いたNHK正月時代劇『新選組!! 土方歳三 最期の一日』は、『新選組!』『篤姫』『龍馬伝』の後に見ると時代的に繋がる。

その他

『義経』(2004年)Lv1 – Lv4

『太平記』(1991年)Lv1 – Lv5

・『北条時宗』(2001年)Lv2 – Lv4

・『武蔵 MUSASHI』(2003年)Lv2 – Lv4

・『平清盛』(2012年)Lv3 – Lv5

『義経』は源平時代の入門用として最適。平清盛(渡哲也)を中心とする「平家」と源頼朝(中井貴一)を中心とする「鎌倉」は、理想的なキャスティングのもと理想的な描き方をされている。それだけに義経主従の軽さが余計に目立ってしまった。この作品の場合、そこで評価が真っ二つに。

『太平記』は名作。この時代(鎌倉後期~室町初期)に馴染みがなくてもなんとか付いていける工夫が随所に見られる。番組最後の「紀行」もこの大河から始まった。生々しい政治闘争の描写は好みが分かれるところであるが、「歴史」というものがいかなるものかを直視させてくれる。

『北条時宗』は時代的に『太平記』に繋がる作品。主人公の兄・北条時輔(渡部篤郎)が史実通り死なずに大陸へ渡ったり、何かと賛否両論を巻き起こした作品でもある。そして今(2016年)のところ、DVDでもNHKオンデマンドでも総集編しか見ることはできない。

『武蔵 MUSASHI』は今(2016年)のところ、DVDでもNHKオンデマンドでも総集編すら見ることはできない。例の『七人の侍』盗作疑惑が影響しているようだが、宮本武蔵を題材にした大河ドラマはこの作品しかないだけになんとも残念な話である(役所広司主演の新大型時代劇『宮本武蔵』は総集編で見ることができる)。

『平清盛』ほど評価が分かれる大河はないかもしれない。『龍馬伝』以上に映像面でのリアリティを追求し、『篤姫』以上に主題を技巧的に変奏させつつストーリーに一本確かな筋を通した。そこに音楽が有機的に絡み合って一大楽劇のような魅力を放ったが、ストーリーは非常に重層的で入り組んだものとなり、その馴染みの薄い時代設定とあいまって、やはり敷居は高いものになったと言わざるをえない。

■主人公が生きた年代は、『平清盛』が1118年~1181年、『義経』が1159年~1189年、『北条時宗』が1251年~1284年、『太平記』が1305年~1358年、飛んで『武蔵 MUSASHI』が1584年?~1645年となる。『平清盛』から『太平記』は時代的に繋がるが、『北条時宗』が総集編でしか見ることができないのは残念。

ここでは、これまでに敷居が高いとして選ぶことができなかった作品を時代順に並べている。この5作品は、その映像美とあいまって「歴史」の生々しさを体感させてくれる。いずれも一度見ただけではその良さは掴みにくい。折にふれて見直したい大河作品。

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筆者

S
S
趣味:音楽鑑賞、得意分野:法思想史、好きな言葉:Frei aber Einsam