『真田丸』第2話「決断」で、徳川家康(内野聖陽)はこう呟く。
武田が滅びたはめでたいことじゃが、ちっとも嬉しゅうないのはなぜだ。信玄入道にはあれほど苦しめられたというのに。勝頼は決して愚鈍な男ではなかった。
信玄には三方ヶ原の戦いで苦しめられた。そのあまりの恐怖に家康は脱糞してしまったともいわれる。だから、武田が滅びたはめでたい、と。でも、嬉しゅうない、勝頼は……と続く。これに対して、本多正信(近藤正臣)は「むしろ武勇には秀でておりました」と返す。そして家康はまた呟く。
なぜじゃ……。信玄が偉大すぎたか、取り巻きが間抜けすぎたか。正信、何がいったい人を滅ぼすのか。
勝頼という男
たしかに勝頼は愚鈍な男と評価されることがままある。ただ、外様も多く含まれるその種々雑多な家臣団は、特別に偉大だった信玄だからこそ束ねることができたともいわれている。若い勝頼にはその「偉大さ」はまだ備わっていない。だから何よりも「功名」が必要であった。それも信玄に匹敵するくらいの。
名門・武田家の頂にいる者が功名を求めるというのもおかしな話だが、勝頼は信玄が滅ぼした諏訪家の姫(諏訪御料人)に生ませた子で、巡り巡って武田家の家督を継ぐことになるまでは、諏訪家を継いで諏訪勝頼を名乗っていた。すなわち、一応、勝頼は武田を仇敵とする家の主であったわけである。
信玄の子であったとはいえ、母・諏訪御料人とともに武田家の中にあっては少なからず肩身の狭い思いをしていたと推察される。井上靖原作の大河ドラマ『風林火山』(2007年)では、同じように家中でどこか浮いていた山本勘助(内野聖陽)から思慕されてはいたものの……。
そういった背景があればこそ、家臣たちが諌めるなか、長篠の戦いでも功をあせった心情が何となく理解することはできる。勝頼にとって家臣たちは、何よりもまず認めさせるべき相手であったに違いない。『風林火山』の勘助にとっても、武田家というものはそういうものであった。
勘助と家康
早々にあの世へいった勘助にとって、武田家が滅ぼうとどうなろうともはや大した関心事ではなかったかもしれない。ただ、勝頼のことだけは気になって気になってしかたなかったはずである。自分が生きていれば、勝頼はこんなことにはならなかった。間抜けな取り巻きどもめ……。
今回の家康はまるで『風林火山』の勘助が乗り移ったかのような家康であった。巷でもそう噂されている。『真田丸』の家康と『風林火山』の勘助、どちらも内野聖陽が演じているのだから、『風林火山』を見ていればそう邪推してしまうのは当然である。
ただ、脱糞させられるくらい苦しめられた武田家は自らの手で滅ぼしたかった……家康がそう考えたとしても不思議ではない。織田が滅ぼすと分前も少なくなるし、織田とは同盟関係といっても、何でも言いなり、信長の命令で結果的に妻も子も殺している、あぁ、肩身が狭い……そういった屈折した家康も、今回の『真田丸』では実にうまく表現されている。
ともあれ、内野聖陽の勝頼愛が貫かれていたり、真田昌幸の父・幸隆(佐々木蔵之介)や小山田信茂の父・信有(田辺誠一)が準主役級で出ていたりと、『風林火山』は『真田丸』へと繋がる作品になっている。従来の大河ファンからはここ10年で最も評価を受けている作品であろうし、『風林火山』を見ていれば『真田丸』をより楽しめるのではないだろうか。
筆者
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趣味:サイクリング
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好きな言葉:塵も積もれば山となる
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